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2015/12/1

組織人たる前にソロイストたれ

羽室行信准教授 ビジネススクール(BS)

私の山のスタイルはソロで、夏はもっぱら沢登り、冬は雪山である。
4年前の厳冬期に知床半島を縦断した。
そのときにお世話になった民宿の主人の言葉が今も忘れられない。
「あなたの山は道楽だね」と。
道楽者、調べると「酒色ばくちなどにふけり、身を持ち崩しているもの」とある。
なるほど、確かにこれまでに山に費やしたお金は数百万にも及んでいる。
その時の山行の日記を読み返してみた。

『結局7:00amに出発する。朝日を背にグングン高度を稼ぐ。暫くするとガスがかかり始め、風も強くなっていく。途中、偽のピークに騙されながらも、とうとう羅臼岳の南ピーク(低い方)に達する。後は北のメインピークだ。先を急ぐ。コルを越えた時、急に雪と風が強くなる。あっという間に立ってられないほどの風となる。体が持っていかれそうになる。ピッケルを地面に刺し、耐風体制で事が過ぎ去るのを待つ。しかし10分待っても全く弱くなる気配がない。南ピークに引き返すことを考える。あそこに、体一つくらい入る窪みがあったのを思い出したからだ。しかし振り返ると自分のつけた足跡が見えない。雪で埋まったのではない。ホワイトアウトが極まったのだ。足元が見えないのである。何たる事か。進退窮まるとはこのことだ。体も徐々に冷えてきて、特に指先が痛くなってきている。危険を感じる。とにかくこの風だけは避けなければ、あとこの状態が30分も続けば非常にまずい状況が予測された。するとラッキーなことに、その場がコルの吹き溜まりで雪が深い。どうにかリュックを雪に埋め込み、スコップを取り出して雪洞を掘り出した。かいた雪は瞬間に飛んでいく。そういう意味では楽だ。30分ほどでどうにか体一つ入れられる雪洞が完成した。中に入ると、そこは別世界である。相当寒いはずなのに、暖かさを感じた。本当に皮膚が温いと感じた。さらに雪洞を掘り進め、1時間ほどで立派な雪洞が完成する。11:00amころである。コンロをつけてカップスープを作り少し落ち着く。外は相変わらずのホワイトアウト+強風だ。全く止む気配がない。もうピークは直ぐそこのはずだが。しかしここは別世界だ。改めて雪洞の素晴らしさを思い閉める。このまま寝てしまいたい。』

研究と山行は非常に共通点が多い。
◎ 結果を出すまでの入念な計画と準備。
◎ 結果が出る直前の興奮と死を意識する時の興奮
◎ 研究結果が出ても、山頂に立っても、何かが足りない。届いていない。
◎ 自分で決めた事は全て自分に返ってくる。何一つとして他人のせいにはできない。

5年ほど前より始まったJST大型研究プロジェクトERATOも終了し、今度は新たにCRESTが始まった。データマイニングの欠点であった膨大なパターン列挙数を劇的に少なくする技術をビジネスに応用することが課題で、特に世の中のハーディング現象の解明を目的にしている。

今の時代、研究もビジネスも個人でどうにかなるものではなくなってきている。
だからといって組織が重要と言いたいのではなく、周りに流されることなく物事を絶対尺度で評価できる目を持ったソロイストが集まってこそ何かが始まるのだと思う。

組織人たる前にソロイストたれ。

朝起きて雪洞から抜け出すために雪をかく。


羅臼山頂より。この興奮を知った人はもう抜けられない。


知床半島が見えてきた。


知床半島の先端から国後島をバックにした朝日。この眺めを眺められる人間はそんなには多くない。